補助金というと「うちの会社で使えるかどうか」だけで考えてしまいがちですが、使い方はもう一つあります。自社の商品やサービスを、お客様に補助金を使って買っていただく、という使い方です。たとえば内装工事の会社が自社で内装工事に補助金を使うことは少なくても、お客様が店舗の改装に補助金を使うときは、その工事が補助の対象になることがあります。
熊本でも、建設・内装・設備・機械・ITの会社から「うちの商品は、お客様の補助金で買ってもらえますか」「売る側として何を準備すればいいですか」というご質問をいただきます。答えは補助金によって違います。デジタル化・AI導入補助金と省力化補助金(カタログ注文型)は、売る側が事前に登録していないと売れません。持続化補助金や新事業進出・ものづくり補助金は登録は要りませんが、見積・発注の順番と、誰から買うかに決まりがあります。
この記事では、2026年10月30日時点の各補助金の公募要領・登録要領にもとづいて、売る側の準備を補助金ごとに整理します。
この記事のポイント
- デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)は、売る側が「IT導入支援事業者」として登録し、商品を「ITツール」として登録しないと、補助の対象として売れません
- 省力化補助金のカタログ注文型は、製品カテゴリごとに「販売事業者」として登録し、お客様と共同で申請します。売る側も事業の実施について連帯して責任を負います
- 持続化補助金などには売る側の登録の決まりはありませんが、交付決定の前に発注・契約・支払いをすると対象外になり、関係会社や親族の会社からの購入も対象外になります
- ここで取り上げた補助金はどれも、お客様の自己負担を減らしたりなくしたりする、あとからの払い戻し・キャッシュバック・ポイントなどの還元は、補助金の目的に反する行為とされます
補助金によって、売る側の準備は大きく違う

売る側の準備は、事前の登録が要る補助金と、要らない補助金に分かれます。登録が要る補助金は、登録された会社から登録された商品を買ったときだけ補助の対象になるので、お客様から相談を受けてから準備を始めても間に合わないことがあります。
| 補助金 | 売る側の登録 | 申請するのは |
|---|---|---|
| デジタル化・AI導入補助金 | IT導入支援事業者とITツールの登録が要る | お客様(売る側と共同事業体を組む) |
| 省力化補助金(カタログ注文型) | 販売事業者の登録が要る(製品はカタログに載ったもの) | お客様と販売事業者が共同で申請 |
| 省力化補助金(一般型) | 要らない | お客様 |
| 持続化補助金・新事業進出・ものづくり補助金 | 要らない | お客様 |
登録が要らない補助金でも、売る側の動き方しだいで、お客様の経費が補助の対象から外れることがあります。見積の出し方と発注の時期は、どの補助金でも気をつけるところです。
デジタル化・AI導入補助金は、IT導入支援事業者とITツールの登録が要る

デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)の通常枠で補助の対象になるのは、IT導入支援事業者が提供し、あらかじめ事務局に登録されたITツールの導入費用だけです。公募要領は、IT導入支援事業者と中小企業・小規模事業者等が「共同事業体」となって各種申請を行う仕組みだと説明しています。誰から買ってもよいわけではないので、ソフトやシステムを売りたい会社は、まずIT導入支援事業者になり、自社の商品をITツールとして登録することになります。
IT導入支援事業者になるには、事務局に登録申請をして、事務局と外部審査委員会の審査を通る必要があります。IT導入支援事業者登録要領(2026年1月23日)の主な要件と準備は次のとおりです。
- 単独で登録できるのは、日本国内で法人登記し、日本国内に本社がある法人です。個人事業主は、法人を幹事社とするコンソーシアムの構成員としてだけ登録できます
- 要件を満たすソフトウェアやそれに類するサービスを、提供・販売した実績が要ります。申請のときは販売実績一覧(事務局の様式)を出します
- 法人は、履歴事項全部証明書の写し(発行から3か月以内)、法人税の納税証明書(その1又はその2)、直近の貸借対照表と損益計算書を出します。納税証明書は1期目の決算を迎えたうえで出すものとされ、代わりの書類は認められないので、決算を一度も迎えていない法人は書類がそろいません
- 最初のITツールは、IT導入支援事業者の登録申請と一緒に登録申請します。ソフトウェアなどのITツールの登録には、料金表・カタログなど価格が分かる資料が要り、見積書では代わりになりません
デジタル化・AI導入補助金2026でIT導入支援事業者に登録した会社(登録しようとしている会社も)は、同じ補助金で、自社が補助を受ける側として交付申請することはできません。代表者・役員も、ほかの会社として交付申請することはできません。自社でもこの補助金を使いたい会社は、登録する前にどちらで使うかを決めておきます。
IT導入支援事業者がやること・やってはいけないこと
IT導入支援事業者は、お客様の申請マイページへの招待、事業計画づくりの支援、ITツール情報の入力など、交付申請の作成を手伝います。ただし、交付申請を提出するのはお客様自身です。交付決定のあとは、まずITツールの契約・発注をし、そのあとで納品・導入と、代金の請求・支払いを行います。契約・発注はすべての手続きより先に行い、代金はIT導入支援事業者が請求したあとに支払ってもらいます。順番が逆になっていると、補助金が出ず交付決定が取り消されることがあります。
申請に使うメールアドレスや電話番号は、お客様自身が管理しているものでなければなりません。売る側が管理するアドレスで申請させ、お客様がやるべき手続きをお客様がやっていない(なりすまし)と判断されると、お客様の交付決定だけでなく、IT導入支援事業者の採択やITツールの登録も取り消されることがあります。虚偽や不正など不適当な行為があったときの登録取消は、事業のホームページで公表されます。
省力化補助金(カタログ注文型)は、販売事業者として登録し、お客様と共同で申請する

中小企業省力化投資補助金のカタログ注文型で補助の対象になるのは、国が省力化の効果を認めて「製品カタログ」に載せた製品です。省力化製品販売事業者登録要領(2026年10月20日改訂)は、この補助金で中小企業等に製品を販売・提供するには、販売事業者として事前に登録する必要があるとしています。製品そのものをカタログに載せる登録は、製品を作るメーカー(製造事業者)が、製品カテゴリごとの工業会等の審査を経て行います。販売する会社が行うのは、販売事業者としての登録です。
販売事業者の主な要件と準備は次のとおりです。
- 登録は製品カテゴリごとに必要です。取り扱う製品が複数のカテゴリにまたがるときは、カテゴリごとに別々に登録します
- 日本国内で法人登記している法人であることが要件です
- 販売しようとする製品か、そのメーカーが作る同じカテゴリの製品を、事業者へ提供・販売した実績が要ります(中古品の販売実績は除きます)。申請のときは、販売実績証明書(納品書)を出します
- 在庫を確保するなど供給体制を整え、交付決定日から原則12か月以内に実績報告まで終えられることが求められます。保守・サポートの体制も要ります
- 販売先を選ぶときに、特別な条件を課してはいけません
申請は、お客様と販売事業者が共同で行います。販売事業者は、お客様と一緒に事業計画を作り、公募要領の要件を満たすかを確かめたうえで共同申請し、事業の実施について連帯して責任を負います。交付決定が取り消されたときは、販売事業者にも補助金の返還が命じられることがあります。
売るときの決まりもあります。お客様に販売する価格は、交付申請のときに申請した製品本体の価格を超えられません。発注・契約・納品・検収・請求・支払いの書類は、製品名と費目をそろえて発行します。カタログ注文型は、令和9年3月末頃まで申請を受け付ける予定で、販売事業者などの登録の有効期間は令和9年9月末までとされています。
一般型との違い
省力化補助金の一般型は、お客様の業務に合わせて設計する専用の設備(オーダーメイド設備)が対象で、販売事業者の登録の仕組みはありません。事業計画は、申請者自身が作ります。売る側は、お客様の求めに応じて見積書を出す立場です。一般型では、発注先1件あたりの見積額の合計が50万円(税抜き)以上なら同じ条件での相見積が原則で、システム構築費は積算の根拠が分かる見積書と仕様書が要り、「システム開発一式」のような見積は認められません。
持続化補助金・新事業進出・ものづくり補助金は、見積と発注の順番に決まりがある

小規模事業者持続化補助金の公募要領には、売る側が事前に登録する決まりはありません。持続化補助金は、店舗の改装工事、機械装置、ホームページ、チラシなど幅広い経費に使えるので、売る側の業種も幅広くなります。そのぶん、売る側が補助金の決まりを知らずに動くと、お客様の経費が対象外になります。〈一般型 通常枠〉第20回の公募要領(第8版・2026年7月21日)から、売る側が気をつけることを挙げます。
- 交付決定の前に発注・契約・購入・支払い(前払いを含む)をしたものは対象外です。採択の通知だけでは事業を始められません。発注を受けるのは、お客様の交付決定のあとです
- 採択から交付決定までに、価格の妥当性を示す見積書を出します。見積に複数の項目が入るときは内訳を示します。支出の内容が分からない見積は認められません
- 1件あたりの発注総額が50万円(税込)を超えるものは、2者以上の見積が要ります。相見積は、お客様自身が別々の会社から取ります。売る側が他社の見積をそろえて渡すことはしません
- 取引は、仕様の提示、見積、発注、納品、検収、請求、支払いの流れで行い、それぞれの書類をお客様が保存・提出できるようにします。公募要領は、ネットでの取引でもこの流れを求めています
- 社内の役員・従業員、代表者や役員の3親等以内の親族、親族が代表や役員をしている会社への発注は対象外です。親会社・子会社・関連会社・関係会社への発注も対象外です
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金も、売る側の登録の決まりはありませんが、見積の決まりはもっと厳しくなっています。第1回の公募要領(1.3版)では、発注先1件あたりの見積額の合計が50万円(税抜き)以上なら、3者以上から同じ条件で見積を取ります。販売実績がまったくない業者の見積は認められず、建設業許可が必要な規模の建物の工事は、許可のない業者の見積も認められません。
新事業進出・ものづくり補助金には、もう一つ売る側が気をつけたい決まりがあります。お客様の事業計画づくりを手伝った会社(事業計画作成支援者)への発注・見積は認められません。商品を売りたい会社が申請の計画づくりまで引き受けると、その会社からは買えなくなります。
ここで取り上げた補助金に共通する、売る側がやってはいけないこと

お客様の自己負担を減らしたり、なくしたりする売り方は、ここで取り上げた補助金のどれでも認められません。デジタル化・AI導入補助金、省力化補助金、持続化補助金、新事業進出・ものづくり補助金の公募要領は、いずれも「補助事業者の自己負担額を減額又は無償とするような販売方法」を、補助金の目的に反する行為・不正な行為として挙げています。あとから代金の一部を戻すキャッシュバックや、ポイント・クーポンでの還元も同じです。「補助金で実質無料」とうたう営業も、この自己負担を減らす売り方に当たります。何がだめなのか、見つかったらどうなるのかは「「補助金で実質無料」「あとでキャッシュバック」の営業は何がだめ?【熊本】」で説明しています。
申請そのものを売る側が肩代わりすることもできません。持続化補助金は、事業者が自ら経営を見つめ直して計画を作ることを前提にしていて、自ら検討していないと分かれば不採択・交付決定取消になります。新事業進出・ものづくり補助金と省力化補助金の一般型も、事業計画は申請者自身で作るものとしています。登録が要らない補助金では、売る側は商品の説明と、正しい見積書・請求書を出すことに徹するのが安全だと、当法人は考えています。デジタル化・AI導入補助金とカタログ注文型は、売る側が申請の作成や計画づくりを手伝う仕組みです。それでも、デジタル化・AI導入補助金の交付申請を出すのはお客様自身で、カタログ注文型はお客様と販売事業者の共同申請です。どちらも、公募要領などの内容をお客様に十分に説明し、理解を得たうえで申請してもらうことが、売る側の登録の要件になっています。
よくある質問

IT導入支援事業者に登録したら、自社でもデジタル化・AI導入補助金を使えますか?
同じ年度は使えません。デジタル化・AI導入補助金2026では、IT導入支援事業者(構成員を含む)と補助事業者は重複できないとされていて、登録している会社、登録しようとしている会社は交付申請ができません。
カタログに載っている製品をまだ売ったことがなくても、販売事業者になれますか?
なれる場合があります。登録要領は、登録済みのメーカーが扱う製品で、同じ製品カテゴリに属すると考えられる製品の販売実績があれば、その製品がカタログに載っていないものでも、販売事業者として登録できるとしています(中古品の販売実績は除きます)。ただし、お客様が補助を受けて買えるのは、カタログに載った製品だけです。
持続化補助金のお客様に、相見積用の他社の見積書を用意してあげてもいいですか?
用意してはいけません。公募要領は、相見積は価格の妥当性を確かめるためのもので、補助事業者自身が別々の会社から取るよう求めています。
グループ会社のお客様に、補助金で買ってもらえますか?
持続化補助金では、親会社・子会社・関連会社・関係会社への発注は、補助の対象外です。代表者・役員の3親等以内の親族が代表や役員をしている会社への発注も対象外です。省力化補助金の一般型でも、同じ代表者・役員がいる会社、親会社・子会社の間、資本関係のある会社、親族や従業員などへの支払いは対象外です。取引の前に、お客様との関係を確かめておきます。
出典・参考
- デジタル化・AI導入補助金2026 公募要領(通常枠・第7回公募〜)
- デジタル化・AI導入補助金2026 IT導入支援事業者登録要領
- デジタル化・AI導入補助金2026 ITツール登録要領
- 中小企業省力化投資補助事業(カタログ注文型)省力化製品販売事業者登録要領
- 中小企業省力化投資補助事業(カタログ注文型)公募要領
- 中小企業省力化投資補助事業(一般型)公募要領(第8回公募)
- 小規模事業者持続化補助金〈一般型 通常枠〉第20回公募 公募要領 第8版(商工会議所地区)
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公募要領(第1回)
まとめ
自社の商品をお客様の補助金で買っていただくための準備は、補助金によって違います。デジタル化・AI導入補助金はIT導入支援事業者とITツールの登録、省力化補助金のカタログ注文型は販売事業者の登録とお客様との共同申請が必要で、どちらも審査があるので、お客様から相談を受ける前に準備しておくことになります。
持続化補助金や新事業進出・ものづくり補助金は、売る側の登録は要りませんが、交付決定の前に発注を受けない、内訳の分かる見積書を出す、相見積はお客様自身が取る、関係会社への販売は対象外、という決まりがあります。ここで取り上げた補助金はどれも、自己負担を減らす還元はできません。
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