「M&Aの仲介会社から電話や手紙が来るが、どこまで信用していいのか分からない」「近くの同業者の会社を引き継げないか考えている」といったご相談を、熊本の経営者の方からいただきます。会社や事業の売り買い(M&A)は、相手も金額も一度きりの話になりやすく、最初にどこへ相談するかで進め方が大きく変わります。
この記事では、熊本で会社や事業を売りたい・買いたいと考えたときの公的な相談先、仲介会社やFA(ファイナンシャルアドバイザー)を選ぶ前に見ておくこと、M&Aの専門家費用に使える補助金を整理します。制度の数字と締切は、2026年10月30日に取り直した原文にもとづいています。
この記事のポイント
- 熊本でM&Aを考えたときの公的な相談先は、熊本商工会議所5階の熊本県事業承継・引継ぎ支援センターです
- 仲介会社・FAを選ぶ前に、中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」に登録されているかを見ます
- 国は、手数料や譲渡金額の説明不足などのトラブル事例を公表し、情報提供受付窓口を置いています
- FA・仲介やデュー・ディリジェンスの費用には、国の事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)や熊本県の事業承継準備枠が使えます
- 補助金は交付決定のあとに結んだ契約が対象なので、M&Aの日程と申請の時期を合わせて考えます
相談先は「公的な相談先」と「民間の専門家」の2つ

M&Aの相談先は、大きく分けて、公的な相談先と民間の専門家(M&A仲介会社・FA)の2つです。熊本の公的な相談先は、熊本県事業承継・引継ぎ支援センター(熊本市中央区横紺屋町10 熊本商工会議所ビル5階、電話 096-311-5030、平日9:00〜17:00)です。
センターが公式ページで挙げている、第三者への譲渡(M&A)の支援は次のとおりです。
- 事業を譲り渡したい方:センターに寄せられる譲受の希望の中からの候補の紹介、全国47都道府県のセンターとの情報共有による遠くの相手とのマッチング、センターに登録された民間のM&A支援会社の紹介
- 事業を譲り受けたい方:商圏の拡大、経営の多角化、人材の確保などを目的とした譲受(買収)の相談
- お相手が決まっている場合:譲渡の進め方の助言、譲渡条件のすり合わせや書類作成に必要な専門家の紹介
センター自身も、第三者への譲渡には、相手探しと条件交渉に時間と手間がかかること、専門家への報酬がかかることを挙げています。民間の専門家に頼む前に、公的な相談先で「自社の場合の進め方」を一度整理しておくと、専門家の提案を比べやすくなります。
仲介会社・FAを選ぶ前に「M&A支援機関登録制度」を見る

M&A仲介会社やFAを選ぶ前に、中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」に登録されているかを見ておきます。この制度は、中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤をつくるための制度で、登録されたFA・仲介業者は中小企業庁のホームページや登録制度の事務局のホームページで公表されています。
登録の有無は、補助金にも関わります。事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)では、FA・M&A仲介の費用が補助の対象になるのは、M&A支援機関登録制度に登録されたFA・仲介業者による支援だけです。登録されているかどうかは、交付決定の時点で確認されます。
登録制度のサイトには、株式価値と手数料の簡易計算ツールも公開されています。提示された手数料が高いか安いかの目安を持っておくと、話を進めやすくなります。
国が公表しているトラブルの例

中小企業庁とM&A支援機関登録制度の事務局は、M&A支援機関とのトラブルについて情報提供受付窓口を置き、トラブルの事例を示しています。2026年9月1日の公表資料に挙げられている事例は、次の4つです。
- 不誠実な対応:サービスの履行が不十分だったり、契約で定めた条件や約束を守らなかったりした
- 手数料の説明不足:成功報酬は売却代金の5%と聞いていたが、最低報酬金額が適用され、想定より高い手数料を払うことになった
- 譲渡金額の根拠の説明がない:株式の譲渡金額などの評価の方法や前提について、事前の説明がなかった
- デュー・ディリジェンスが不十分:仲介者が自らDDを行っていたことなどでDDが不十分だった。弁護士や会計士などの専門家の意見を求めることができると知らされなかった
この情報提供受付窓口は、紛争の解決や助言を目的とするものではありません。情報を寄せても、求めた対応や質問への返事はもらえません。
同じ資料では、営業をやめてほしいと伝えたのに広告・営業が再開された登録M&A支援機関に、事務局が改めて注意を出したことも公表されています。契約の前に、手数料の計算方法(最低報酬の有無)と、譲渡金額の評価の根拠を書面で確かめることが大切です。
FA・仲介・DDの費用に使える補助金

M&Aの専門家費用には、国の事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)と、熊本県の事業承継・後継ぎ支援事業補助金(事業承継準備枠)が使えます。
| 項目 | 国:専門家活用枠(16次公募) | 熊本県:事業承継準備枠 |
|---|---|---|
| 対象 | 株式・経営資源を譲り受ける予定(買い手支援類型)、譲り渡す予定(売り手支援類型)の中小企業等 | 熊本県内で事業承継を予定する小規模事業者等 |
| 補助率 | 買い手2/3以内、売り手1/2以内(営業利益率の低下・赤字などの要件にあてはまれば2/3以内) | 3分の2以内 |
| 補助上限額 | 600万円(DDを行う場合は200万円を加算) | 50万円 |
| 締切 | 2026年11月6日(金)17時 | 2026年11月30日(月)午後5時必着 |
国の専門家活用枠は、補助額が50万円を下回る申請は受け付けません(補助下限額)。ただし16次公募には、譲り渡す予定の小規模事業者等を対象にした「小規模売り手支援類型」が別の公募要領で設けられていて、補助率は3分の2以内、補助上限額は450万円、補助下限額はありません。専門家活用枠(売り手支援類型)と同じ公募回に両方を申請することはできません。補助事業期間内にM&Aがまとまらなかった(クロージングしなかった)ときは補助上限額が変わり、専門家活用枠は300万円で原則としてデュー・ディリジェンスの費用だけ、小規模売り手支援類型は50万円で着手金・システム利用料・デュー・ディリジェンスの費用が対象になります。熊本県の事業承継準備枠の譲渡支援類型では、第三者への承継(M&A等)について、アドバイザリー契約の着手金・中間金・成功報酬、企業価値の算定、デュー・ディリジェンス、不動産鑑定などの費用が対象として挙げられています。県の補助金は、地域の商工会議所・商工会の支援を受けていることが要件です。
株式や事業の買取代金そのものは、国の事業承継・M&A補助金の補助対象経費の区分に入っていません(事業承継促進枠は、前の経営者に払う譲受費用を対象外と明記しています)。詳しくは「会社を買う代金に事業承継・M&A補助金は使える?」にまとめています。
補助金は「交付決定のあとの契約」が対象

補助金を使うなら、M&Aの日程と申請の時期を合わせます。国の専門家活用枠では、補助対象経費は、交付決定日以降かつ補助事業期間の間に契約・発注し、支払いまで同じ期間内に終えたものに限られます。熊本県の事業承継準備枠も、交付決定通知書を受け取る前の発注・契約・支出は対象外です。
国の専門家活用枠では、仲介・FAの報酬にも決まりがあります。
- 中間報酬:補助事業期間内に、専門家と契約し、相手と基本合意書を結び(意向表明書は不可)、期間内に払ったもの
- 成功報酬:補助事業期間内に、専門家と契約し、相手と最終契約書を結び、期間内に払ったもの
- 16次公募の補助事業期間は、2027年1月(下旬予定)から14か月以内が想定されています
すでに仲介会社と契約を結んでいる、まもなく最終契約という段階だと、補助金の対象にできない費用が出てきます。M&Aの話が具体的になる前に、使う補助金と締切を決めておく必要があります。
よくある質問
仲介会社から届いた手紙は、相手にしないほうがいいですか?
一律に断る必要はありませんが、M&A支援機関登録制度に登録されているか、手数料の計算方法と最低報酬額を、話を聞く前に見ておきます。営業をやめてほしいと伝えた登録機関が営業を続けた場合は、登録制度の情報提供受付窓口へ情報を寄せることができます(匿名でも受け付けています)。
会社を買う側でも、公的な相談先は使えますか?
使えます。熊本県事業承継・引継ぎ支援センターは、商圏の拡大や人材の確保などを目的とした譲受(買収)の相談も受けると公式ページで示しています。
国と熊本県の補助金を、同じ専門家費用に両方使えますか?
使えません。熊本県の事業承継準備枠の公募要領は、国や県、市町村が助成するほかの制度と重複する事業を補助の対象外としています。
出典・参考
- 熊本県事業承継・引継ぎ支援センター(第三者承継)
- 熊本県事業承継・引継ぎ支援センター
- M&A支援機関登録制度
- 不適切な営業行為に係るトラブルの発生を踏まえた対応について(中小企業庁・M&A支援機関登録制度事務局、2026年9月1日)
- 事業承継・M&A補助金 専門家活用枠 16次公募 公募要領
- 事業承継・M&A補助金 専門家活用枠(小規模売り手支援類型)16次公募 公募要領
- 熊本県事業承継・後継ぎ支援事業補助金(事業承継準備枠)公募要領
まとめ
熊本でM&Aを考えたら、まず熊本県事業承継・引継ぎ支援センターで、自社の場合の進め方を整理します。民間の仲介会社・FAに頼むときは、M&A支援機関登録制度に登録されているかと、手数料の計算方法・譲渡金額の根拠を、契約の前に確かめます。
FA・仲介やデュー・ディリジェンスの費用には、国の専門家活用枠(11月6日17時締切)と熊本県の事業承継準備枠(11月30日必着)が使えますが、交付決定より前に結んだ契約は対象になりません。M&Aの日程と補助金の時期を、話が具体的になる前に合わせておいてください。
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ノーサイド行政書士法人は、熊本の補助金申請を支援している行政書士法人です(経済産業省の認定経営革新等支援機関)。M&Aの段階に合った補助金の枠の見立てと、申請の時期の組み立てをお手伝いします。
