熊本県の「中小・小規模事業者生産性・売上げ向上後押し事業補助金(第2弾)」は、国や県の補助金を使った事業者の自己負担を、さらに軽くしてくれる上乗せの補助金です。要件の1つに全従業員の賃上げがあり、月給や日給の従業員がいる会社は「賃金引上げセルフチェックシート」を出します。この記事では、月給の人の賃上げを時給に直すといくらになるのか、セルフチェックシートの所定労働時間をどう考えるのかを、熊本県の申請要領とセルフチェックシートの計算式にそって説明します。
この記事のポイント
- 国・県の補助事業の自己負担を、補助率を合わせて9/10まで軽くする上乗せの補助金です。上限は最大200万円です
- 要件は、国・県の補助事業の採択と交付の確定、全従業員の賃上げ、パートナーシップ構築宣言の3つです
- 月給の人は、セルフチェックシートで「1か月平均所定労働時間」を出し、月給をその時間で割った時間単価で見ます
- 時間単価を1円上げるには、月給を「1か月平均所定労働時間 × 1円」以上上げます。164時間なら164円以上です
- セルフチェックシートの所定労働時間は、賃金台帳や雇用契約と同じ数字にします。合わせた結果、時間単価が1,034円以下になる人がいると要件を満たしません
後押し事業補助金(第2弾)とは

この補助金は、国・県の補助事業を活用して生産性の向上などと従業員の賃上げに取り組み、パートナーシップ構築宣言を行った事業者に、補助事業にかかった自己負担の一部を補助するものです。熊本県は、令和8年1月まで実施していた同じ制度の内容を広げ、「第2弾」として2月以降も実施しています。
補助の考え方は、国・県の補助事業の補助対象経費について、もとの補助率とこの補助金の補助率を合わせて9/10にし、上限は200万円とするものです。補助率と上限額は、もとの補助事業の種類や枠ごとに申請要領の表で決まっています。なお、くまもと型応援補助金はこの補助金の対象になりません。
交付を受けられるのは、熊本県内に主たる事業所がある中小企業者等(法人・個人)で、次の3つをすべて満たす事業者です。
- 県が指定する国・県の補助事業で、令和6年5月23日以降に採択を受け、かつ交付の確定を受けている
- 令和7年9月4日以降に、全従業員の賃金を令和7年度の熊本県最低賃金を超える額(時給1,035円以上)に引き上げている。すでに最低賃金を超えていた場合は、さらに賃金を引き上げていることが必要です
- パートナーシップ構築宣言のポータルサイトに登録している
申請期間は令和8年2月2日から令和9年1月29日までで、予算額に達した場合は期限前でも受付を終了します。申請は熊本県のページの電子申請フォームから行います。
賃上げの確認は「賃金台帳」と「セルフチェックシート」

全従業員の賃上げは、賃金台帳で確認されます。申請要領では、給与明細・出勤簿・源泉徴収簿では受け付けられず、引き上げ前と引き上げ後の賃金台帳の写し(全従業員分)を出すことになっています。社員だけでなく、パートやアルバイトも含みます。
賃金台帳には、労働基準法で決められた10項目(氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、時間外・休日・深夜の労働時間数、基本給や手当の種類と金額、控除項目と金額)がすべて必要です。該当する時間数がない場合は「0」と書きます。
そのうえで、賃金の支払い形態が月給・日給の従業員がいる場合だけ、賃金台帳とあわせて「賃金引上げセルフチェックシート」を出します。時給の従業員だけなら、セルフチェックシートは要りません。ここでいう「従業員」には、役員、個人事業主本人、事業専従者、産休・育休・介護休業・休職中の従業員などは含みません。
月給の人の「時間単価」の出し方

セルフチェックシートの月給のシートでは、次の順番で時間単価を出します。
- 1か月平均所定労働時間 =(1年の暦日数 − 年間休日日数)× 1日あたりの所定労働時間 ÷ 12か月。端数は切り捨てます
- 時間単価 =(基本給 + 各種手当)÷ 1か月平均所定労働時間。端数は四捨五入します
各種手当に入れるのは、役職手当・職務手当など、入れないものを除くすべての手当です。賞与、時間外・休日出勤・深夜勤務の手当、通勤手当、家族手当、精皆勤手当、臨時の賃金(結婚祝賀金など)、役員手当は入れません。
セルフチェックシートの記載例で計算すると、次のとおりです。
| 項目 | 記載例の数字 |
|---|---|
| 1年の暦日数 | 365日 |
| 年間休日日数 | 118日 |
| 1日あたりの所定労働時間 | 8時間 |
| 1か月平均所定労働時間 | (365 − 118)× 8 ÷ 12 = 164.66… → 164時間 |
| 基本給 + 各種手当 | 240,000円 + 10,000円 = 250,000円 |
| 時間単価 | 250,000 ÷ 164 = 1,524.39… → 1,524円 |
シートの最後では、月給・日給の人の時間単価のうち、引上げ前でいちばん低い額と引上げ後でいちばん低い額を比べ、その差が1円以上であることと、引上げ後でいちばん低い額が1,034円を超えていることを確かめます。1,034円は、令和7年度の熊本県最低賃金です。
時給1円の引上げは、月給ではいくらか

月給の人の時間単価を1円上げるには、月給を「1か月平均所定労働時間 × 1円」以上上げます。記載例の164時間の人なら、164円以上です。逆に割り戻して確かめると、164円 ÷ 164時間 = 1.00円で、時給がちょうど1円上がっています。
| 1か月平均所定労働時間 | 時給1円に当たる月給の引上げ | 割り戻すと |
|---|---|---|
| 164時間 | 164円以上 | 164円 ÷ 164時間 = 1.00円 |
| 130時間 | 130円以上 | 130円 ÷ 130時間 = 1.00円 |
ここで気をつけたいのが、時間単価の四捨五入です。記載例の250,000円の人は、時間単価が1,524.39円なので、月給を18円上げるだけで250,018 ÷ 164 = 1,524.5となり、四捨五入で1,525円になります。シートの上では1円上がったように見えますが、割り戻すと18円 ÷ 164時間 = 約0.11円で、時給は1円も上がっていません。
申請要領が求めているのは「全従業員の賃金を引き上げた」ことです。当法人では、四捨五入でたまたま数字が上がる額ではなく、割り戻して時給1円以上になる額(1か月平均所定労働時間 × 1円以上)で、全員の引上げ額を決めることをおすすめしています。全員を同じ額で上げる場合は、いちばん所定労働時間が長い人に合わせると、全員が1円以上になります。
所定労働時間は、賃金台帳と同じ数字にする

セルフチェックシートの「1日あたりの所定労働時間」と「年間休日日数」は、賃金台帳と雇用契約(就業規則)と同じ数字で作ります。賃金台帳は申請要領で賃上げの根拠資料とされ、労働時間数も必ず書く項目です。シートの時間と台帳の時間が食い違っていると、どちらが正しいのかが説明できません。
注意したいのは、所定労働時間を合わせると時間単価が大きく変わることです。たとえば月給175,000円(手当なし)、年間休日105日の人で比べると、次のようになります。
| 1日の所定労働時間 | 1か月平均所定労働時間 | 時間単価 |
|---|---|---|
| 6時間 | (365 − 105)× 6 ÷ 12 = 130時間 | 175,000 ÷ 130 = 1,346円 |
| 8時間 | (365 − 105)× 8 ÷ 12 = 173.33… → 173時間 | 175,000 ÷ 173 = 1,011.56… → 1,012円 |
同じ月給でも、8時間で計算すると時間単価は1,012円になり、「引上げ後の額が1,034円を超える」という要件を満たしません。勤務の実態に合わせて所定労働時間を直したら要件を外れた、ということが起こり得ます。
ですから、セルフチェックシートを作る前に、全員の所定労働時間と年間休日が賃金台帳・雇用契約と一致しているか、一致させたときに時間単価が1,034円を超えているかを、一人ずつ確かめておきます。超えない人がいる場合は、賃上げの額を見直してから申請します。
よくある質問

月給の人が多いのですが、全員に同じ額を上げればよいですか?
同じ額でもかまいませんが、時給にして1円以上になるかは人によって違います。1か月平均所定労働時間がいちばん長い人に合わせて「その時間 × 1円」以上を上げれば、全員が時給換算で1円以上になります。
時給の従業員しかいない場合も、セルフチェックシートは要りますか?
要りません。申請要領では、セルフチェックシートは賃金の支払い形態が月給・日給の従業員を含む場合だけ出すものとされています。時給の従業員は、賃金台帳で時給が上がっていることを示します。
賃金台帳はいつの月のものを出しますか?
引き上げ前と引き上げ後の両方を出します。申請要領の例では、令和8年2月10日支給分で賃上げした場合、引き上げ前は令和8年1月10日支給分、引き上げ後は令和8年2月10日支給分の台帳です。段階的に賃上げした場合は、引き上げ前の台帳を最初に上げる前の月のものにします。
役員の報酬も上げないといけませんか?
役員は、この要件の「従業員」に含まれません。個人事業主本人、事業専従者、産休・育休・介護休業・休職中の従業員なども含まれません。
出典・参考
- 熊本県「熊本県中小・小規模事業者生産性・売上げ向上後押し事業補助金(第2弾)」
- 熊本県「申請要領【ver.3】」
- 熊本県「交付要領」
- 熊本県「【参考様式】賃金引上げセルフチェックシート」(Excel)
- 熊本県「チラシ」
まとめ
後押し事業補助金(第2弾)は、国・県の補助事業の自己負担を9/10まで軽くできる上乗せの補助金で、全従業員の賃上げが要件です。月給の人は、セルフチェックシートで1か月平均所定労働時間を出し、時間単価で賃上げを確かめます。
時給1円の引上げは、月給では「1か月平均所定労働時間 × 1円」以上です。四捨五入で数字が上がって見える額ではなく、割り戻して1円以上になる額で決めてください。所定労働時間は賃金台帳・雇用契約と同じ数字にし、そのうえで全員の時間単価が1,034円を超えているかを確かめておくと、申請のあとで食い違いを指摘されずに済みます。
ご相談はノーサイド行政書士法人へ
ノーサイド行政書士法人は、熊本の補助金申請を支援している行政書士法人です(経済産業省の認定経営革新等支援機関)。もとの補助金の実績報告から、この上乗せ補助金の申請、セルフチェックシートの作成まで、続けてお手伝いしています。
