国土交通省は、子育て世帯が安心して暮らせる賃貸住宅を増やすため、賃貸住宅の新築や改修に補助金を出しています。賃貸マンションのオーナーや、区分マンションを貸している投資家、投資用マンションを建てる建設会社にとって、入居者の層を広げながら工事費の一部を補助してもらえる制度です。この記事では、いま使える国の制度を、補助額・条件・期限・注意点に分けて整理します。
結論から言うと、中心になるのは「子育て支援型共同住宅推進事業」です。賃貸住宅のオーナー自身が申請でき、区分マンションの1戸だけの改修でも使えます。新築の賃貸住宅では、省エネ性能の高い住宅に出る「みらいエコ住宅2026事業」も対象になります。子育て支援型と、みらいエコ住宅の長期優良住宅・ZEH水準住宅には、子育て世帯に限った入居者募集などの条件があるので、収支と運営の計画に組み込んでから判断します。
まず、2つの制度の違い
| 子育て支援型共同住宅推進事業 | みらいエコ住宅2026事業(賃貸住宅の新築) | |
|---|---|---|
| 何に出るか | 子どもの安全を守る設備(転落防止・防犯など)と、居住者の交流を促す施設(キッズルーム・プレイロットなど) | 省エネ性能の高い住宅(GX志向型住宅・長期優良住宅・ZEH水準住宅)の新築 |
| 新築/改修 | 賃貸住宅の新築と改修、分譲マンションの改修 | この枠は新築のみ(別にリフォームの枠あり) |
| 申請する人 | 新築は賃貸住宅の所有者(オーナー)。改修はオーナーのほか、許諾を得たサブリース事業者なども | 登録された建築事業者(みらいエコ住宅事業者)。オーナーは自ら申請できない |
| 補助の目安 | 新築:工事費の1/10。安全設備は1戸125万円、交流施設は1棟625万円まで。改修:工事費の1/3。安全設備は1戸120万円、交流施設は1棟600万円まで | GX志向型住宅1戸110万円(熊本県内の地域の場合)。長期優良住宅・ZEH水準住宅は子育て世帯向けで、対象は住戸数の50% |
| 子育て世帯の条件 | 小学生以下の子どもを養育している世帯(令和8年4月1日時点)。募集は少なくとも10年間続く | 長期優良住宅・ZEH水準住宅は、18歳未満の子がいる世帯か若者夫婦世帯に限った募集。GX志向型住宅は条件なし |
子育て支援型共同住宅推進事業
共同住宅(賃貸住宅と分譲マンション)を対象に、事故や防犯など子どもの安全・安心につながる住宅の新築・改修と、子育て期の親どうしの交流を生む取り組みを支援する国交省の事業です。建物は建築基準法上の「共同住宅」か「長屋」に限られ、戸建ては対象外です。賃貸併用住宅は対象で、オーナーの居住部分や店舗の分は面積で按分して除きます。
使える人
- 新築(賃貸住宅建設型) 賃貸住宅の所有者(オーナー)が申請します。
- 改修(賃貸住宅改修型) オーナー、オーナーの許諾を得たサブリース事業者などが申請できます。区分マンションの住戸を貸している場合も、この賃貸住宅改修型の対象です。
- どちらも、申請する人は工事の発注者であることが前提です。
1戸だけの改修でも使えます。国交省の資料には、築39年・10戸の賃貸住宅のうち1戸を改修し、指詰め防止や対面キッチンの設置で上限の120万円の補助を受けた例が載っています。
補助率と上限
| 補助率 | 子どもの安全を守る設備 | 交流を促す施設 | 宅配ボックス | |
|---|---|---|---|---|
| 新築(賃貸住宅建設型) | 工事費の1/10以内 | 1戸125万円まで | 1棟625万円まで | ― |
| 改修(賃貸住宅改修型など) | 工事費の1/3以内 | 1戸120万円まで | 1棟600万円まで | 1棟50万円まで |
新築の場合、たとえば1棟20戸・総工事費3.5億円なら、補助金の額は3.5億円×1/10=3,500万円ですが、上限は125万円×20戸+625万円=3,125万円なので、3,125万円が申請額になります(交付申請等要領の計算例)。上限額は、令和7年度補正予算で物価高騰をふまえて引き上げられました。
対象になる工事
子どもの安全を守る設備として、造り付け家具の面取り、ドアクローザー、転落防止の手すり、指詰め防止、チャイルドフェンス、対面キッチン、防犯性の高い玄関ドア、防犯カメラ、家具の転倒防止のための下地、避難動線の確保など19項目が決められています。新築はこの全項目が必須で、改修は転落防止の項目だけが必須です(すでに基準を満たしている項目は、改めて工事する必要はありません)。交流を促す施設は、キッズルーム・集会室、プレイロット、家庭菜園、交流用ベンチです。
調査費、設計料、工事監理費、申請費、産廃処理費など建物の工事費ではない費用、新築の場合の従前建物の解体費、用地取得費や宅地造成費は、補助の対象になりません。
主な要件
- 入居者の条件 「特定子育て世帯」=交付申請日に、子ども(令和8年4月1日時点で小学生以下)を養育している世帯です(出生前は含みません)。
- 募集の条件 交付決定の通知後に入居者募集を始め、募集開始から3か月間は特定子育て世帯に限って募集します(3か月以上入居者が決まらなければ、それ以外の世帯も入居できます)。さらに少なくとも10年間は、入居者が入れ替わるたびに、特定子育て世帯を3か月間募集します。
- 広さ 住戸部分の床面積が40㎡以上であること。
- 戸数 新築では、安全設備の補助を受けて整備する住戸が1棟あたり5戸以上であること。
- 建物 新耐震基準に適合していること。新築では、土砂災害特別警戒区域など災害の危険が高い区域に立地しないこと。
- 社宅は対象外 広く一般に入居者を募集することが要件で、契約者が自由に入居者を変えられる社宅などは対象外です。
宅配ボックスだけを設置する場合は、条件が変わります。子育て世帯の入居率が3割以上であることが条件で、この場合の子育て世帯は18歳未満の子を養育している世帯です。補助は、対象の工事費に子育て世帯の入居率を掛けて計算します。対象製品は、みらいエコ住宅2026事業に登録された製品に限られます。安全設備と一緒に設置する場合は、安全設備の補助の上限の内側に収まります。
申請の流れ
- 工事の請負契約を結びます(事前相談の応募には、請負契約の締結済みが条件です)。
- 事務局(子育て支援型共同住宅サポートセンター)のサイトから応募し、事前相談を受けます。書類・図面を使って要件を一つずつ確かめるもので、目安として2〜3か月かかります。
- 事前審査をクリアしたら、電子申請システム(Jグランツ)で交付申請をします。GビズIDが必要です。
- 交付決定を受けてから着工します。
- 工事が終わったら完了実績報告を出し、補助金が支払われます。
- その後10年間、年1回の定期報告を続けます。
令和8年度の期限
| 事前審査をクリアする期限 | 交付申請の期限 | |
|---|---|---|
| 新築(賃貸住宅建設型) | 令和8年9月30日 | 令和9年2月26日 |
| 改修(賃貸住宅改修型・分譲マンション改修型) | 令和9年1月29日 | 令和9年2月26日 |
| 宅配ボックスの設置のみ | 令和9年1月29日 | 令和9年1月29日 |
令和8年度に着工する事業が対象で、令和8年度中に着工に至らない場合は交付決定が無効になります(宅配ボックスの設置のみは、着手の期限が令和9年1月31日)。完了実績報告の期限は令和9年2月3日で、工事の完了が令和9年1月1日以降になるものは事務局が期限を指定します。年度をまたぐ工事は、全体設計の承認を受けないと原則として進められません。いずれも予算の執行状況によって前倒しで終わることがあり、補助金の枠は申請順ではなく交付決定の順に確保されます。
新築(賃貸住宅建設型)は、事前審査を9月30日までにクリアする必要があります。事前相談の応募には請負契約の締結が前提で、事前相談には通常2〜3か月かかるため、これから計画する新築は、令和8年度の新規の申請には実質的に間に合いません。令和9年度は、国交省の概算要求で事業の延長が求められていますが、事務局は来年度の実施は現時点で未定としています。新築を考えている場合は、来年度の公募に向けて準備を進めるのが現実的です。
注意点
- 交付決定の前に着工すると、補助金は出ません。新築の「着工」は、建築確認の確認済証が出たあとに基礎工事を始めた日とされています。地鎮祭、解体、仮囲いは着工前、基礎工事・杭打ち・柱状改良は着工後の扱いです。
- 国の他の補助金との併用は原則できません。補助の対象が明らかに重ならない場合は申請できます。自治体の補助金は、その自治体側で問題がなければ申請できるとされています。
- 10年間の管理と報告の義務があります。補助を受けた住宅は少なくとも10年間適切に管理し、定期報告を続けます。途中で譲渡するときは承認が必要で、譲り受けた人も子育て世帯の募集条件を引き継ぎます。
- 申請者は日本に住んでいる人が前提です。10年間の定期報告の義務があるためで、海外に住んでいるオーナーは申請できません。
- 融資を使う場合は、融資の内諾を得てから交付申請します。
みらいエコ住宅2026事業(賃貸住宅の新築)
国交省と環境省による、省エネ性能の高い住宅の新築とリフォームを支援する事業です。賃貸住宅の新築も対象で、投資用マンションや賃貸アパートを建てる建設会社には直接関係します。
対象になる人と申請のしかた
- 新築する賃貸住宅の建築主で、かつ賃貸オーナーである個人・法人が対象です。完成した住宅を買って賃貸オーナーになる場合は対象外です。
- 交付申請の手続きと、補助金のオーナーへの還元は、あらかじめ「みらいエコ住宅事業者」として登録した建築事業者が行います。オーナーは自ら申請できず、建築事業者の手続きに協力します。登録のない事業者との契約は補助の対象になりません。
- 2025年11月28日以降に基礎工事に着手した住宅が対象です。住戸の床面積は50㎡以上240㎡以下です。
- 登録事業者が自ら建てて自ら賃貸する住宅(自社施工)も対象です。GX志向型住宅は、建築する事業者のGXへの協力表明が必要です。
- 交付申請は基礎工事が終わってから出します。また、2027年1月31日時点で一定以上の出来高になっている必要があります。
補助額(1戸あたり)
| 住宅の性能 | 5〜8地域(熊本県内) | 1〜4地域 | 対象になる住戸 | 入居者の条件 |
|---|---|---|---|---|
| GX志向型住宅 | 110万円 | 125万円 | 全戸 | なし(すべての世帯) |
| 長期優良住宅 | 75万円 | 80万円 | 要件を満たす住戸数の50% | 子育て世帯・若者夫婦世帯に限った募集 |
| ZEH水準住宅 | 35万円 | 40万円 | 要件を満たす住戸数の50% | 子育て世帯・若者夫婦世帯に限った募集 |
長期優良住宅とZEH水準住宅は、補助の対象が要件を満たす賃貸住戸数の50%です。手続きのうえでは、5〜8地域の場合、長期優良住宅は1戸37万5千円、ZEH水準住宅は1戸17万5千円として扱われます。
長期優良住宅・ZEH水準住宅の追加の要件
- 子育て世帯(令和7年4月1日時点で18歳未満の子がいる世帯。令和8年3月末までに着工する場合は令和6年4月1日時点で判定)か若者夫婦世帯に限って、少なくとも3か月入居者を募集すること。
- 補助金の額を勘案した合理的な家賃(子育て等優遇家賃)を設定すること。
- 住宅内の事故防止、子どもの見守り(対面キッチン)、不審者の侵入防止、災害への備えの技術基準(子育て等配慮技術基準)に適合すること。
- 交付申請(予約を含む)の前に、事務局の事前相談を受けること。事前相談が完了する前に賃貸借契約を結んだ住戸は、入居世帯にかかわらず対象外になります。
期限と予算
交付申請の予約は遅くとも2026年11月16日まで、交付申請は遅くとも2026年12月31日までで、GX志向型住宅も長期優良住宅・ZEH水準住宅も同じです。長期優良住宅・ZEH水準住宅は、これに加えて2026年11月16日までに事前相談を済ませる必要があります。いずれも予算の上限に達した時点で終わり、予算の枠はGX志向型住宅とそれ以外で分かれています。予算の消化状況は公式サイトで毎日公表されています。
注意点
- 同じ住宅について、国の他の補助制度から重ねて補助を受けることはできません。地方公共団体の補助制度は、国費が充てられているものを除いて併用できます。
- 同じ住宅で、先進的窓リノベ2026事業・給湯省エネ2026事業・賃貸集合給湯省エネ2026事業の補助を受けることもできません。
- 補助を受けて取得した住宅は、一定の期間、国または事務局の承認なく目的外の使用や譲渡などができません(住宅として販売・譲渡・賃貸する場合などを除く)。
2つの制度をどう使い分けるか
- 区分マンション・既存の賃貸住宅を持っている 改修なら子育て支援型共同住宅推進事業(賃貸住宅改修型)が中心です。1戸からでも使え、転落防止の工事が必須です。省エネの改修なら、みらいエコ住宅のリフォームの枠が使える場合もあります。
- これから賃貸マンションを新築する 子育て支援型は安全設備で1戸125万円まで出る一方で、19項目すべての整備と、10年間の子育て世帯向けの募集が条件です(令和8年度の新築の事前審査は9月30日まで)。みらいエコ住宅はGX志向型なら入居者の条件がなく、長期優良・ZEH水準は子育て世帯向けですが対象が住戸数の50%に限られます。
- 同じ住宅で両方を受けられるか みらいエコ住宅2026事業の資料では、住宅の本体工事の全部または一部を対象とする国の他の補助制度とは、同じ住宅で併用できないとされています。子育て支援型の新築は新築工事の総工事費が補助の対象なので、同じ住宅で両方を受ける前提では計画できません。
- 完成物件を買って貸す みらいエコ住宅の賃貸住宅の新築の枠は対象外です。子育て支援型の新築も、申請者は工事の発注者(オーナー)です。買ったあとに改修するなら、子育て支援型の改修型や、みらいエコ住宅のリフォームの枠(平成28年以前に建った住宅が原則)が使えることがあります。
投資の判断で見落としやすいのは、10年間の募集条件と、交付決定まで着工できないことです。子育て世帯に限った募集期間の空室の見込み、出口(売却)で条件を引き継ぐこと、事前相談に2〜3か月かかることを、収支計画と工程表に入れてから申請を決めます。
ほかに知っておきたい動き
セーフティネット専用住宅の改修の補助
子育て世帯を含む住宅の確保に配慮が必要な方の専用の賃貸住宅にするための改修に、国が直接補助する事業もあります。補助率は1/3、上限は1戸62万円などで、子育て世帯対応の改修などを行う場合は上限が引き上がります。令和8年度の受付は令和8年12月11日までで、予算の上限に達すると終わります。一方で、10年以上の専用住宅としての登録や家賃の上限(熊本市は57,700円)があり、熊本市は改修費の上乗せ補助や家賃補助を現在行っていません。収益の面での制約が大きい制度です。
住宅金融支援機構の子育て世帯向け賃貸住宅の融資は受付停止中
住宅金融支援機構の「子育て世帯向け省エネ賃貸住宅建設融資」は、令和8年3〜5月の3か月間に、令和4〜6年度の3年間と同じくらいの申込みがあったため、新規の申込み受付を停止しています。再開の時期は、現時点では見通せないとされています。融資を前提に計画している場合は、資金調達の組み立てを先に確かめます。
令和9年度に向けて
国交省の令和9年度予算の概算要求では、子育て支援型共同住宅推進事業の延長と、新しい「みらいエコ住宅2027事業」が盛り込まれています。中身は予算が決まってから公表されるので、来年度に着工する計画も、早めに準備しておくと動きやすくなります。
よくあるご質問
区分マンションを1戸だけ貸しています。使えますか?
子育て支援型共同住宅推進事業の賃貸住宅改修型が使えます。転落防止の工事が必須(すでに基準を満たしていれば改めて工事は不要)で、改修費の1/3、安全設備は1戸120万円までが補助されます。共用部分に当たる箇所の工事をする場合は、申請の前にマンション管理組合の承認が必要です。
入居者がすでにいる部屋を改修する場合は?
改修型で、交付申請の時点ですでに入居者がいる場合は、その入居者が特定子育て世帯(小学生以下の子どもを養育している世帯)であることが要件です。
自治体の補助金と一緒に使えますか?
子育て支援型は、自治体の補助金はその自治体側で問題がなければ申請できるとされています。みらいエコ住宅は、国費が充てられていない自治体の補助制度なら併用できます。国の補助金どうしの重ねがけは、どちらも原則としてできません。
補助金はいつ入りますか?
子育て支援型は、工事が終わり、原則として補助対象の工事費を全部支払ってから完了実績報告を出し、補助金の額が確定したあとに支払われます。工事の代金はいったん全額を用意する前提で、資金繰りを組みます。年度をまたぐ工事で全体設計の承認を受けている場合は、年度ごとに報告して支払いを受けます。
みらいエコ住宅は、補助金が登録事業者(建築事業者)に振り込まれ、原則として建築代金の最後の支払いに充てる形でオーナーに還元されます。振込の時期は、2026年度末(2027年3月末ごろ)か、完了報告の審査が終わったときのいずれか早いほうとされており、竣工より前に入ることもあります。その場合でも、完了報告が出せなければ返還になります。補助金全体に共通する流れは補助金の申請から入金までの流れにまとめています。
この記事の内容は、子育て支援型共同住宅推進事業の交付申請等要領、国土交通省の事業ページ、募集開始の報道発表、事務局のよくあるご質問、国交省の実例資料、みらいエコ住宅2026事業の賃貸住宅の新築のページ、セーフティネット専用住宅改修事業の報道発表と事務局のページ、熊本市のページ、住宅金融支援機構のお知らせ、国交省の令和9年度予算概算要求にもとづいています。期限や予算の状況は変わることがあるので、申請の前に最新の情報で確かめます。
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