新事業進出・ものづくり商業サービス補助金には、賃上げ要件があります。その計算のもとになるのが「給与支給総額」です。この記事では、法人と個人事業主それぞれの数え方を、いまの公募要領にそって整理します。
この記事は以前、ものづくり補助金の法人向け・個人事業主向けに分けてご紹介していました。当時の計算方法(役員報酬を含める、個人事業主は事業主本人の所得金額を足す)は、いまの公募要領の定義とは違います。以前の数え方のまま目標値を立てないよう注意してください。
給与支給総額とは(公募要領の定義)
公募要領では、給与支給総額を次のように定めています。
給与支給総額とは、従業員に支払った給与等(給料、賃金、賞与等は含み、役員報酬、福利厚生費や法定福利費、退職金は除く)をいいます。
| 含めるもの | 含めないもの |
|---|---|
| 従業員に支払った給料、賃金、賞与等 | 役員報酬、福利厚生費、法定福利費、退職金 |
ここでいう「従業員」は、中小企業基本法上の「常時使用する従業員」です。労働基準法第20条にもとづく「予め解雇の予告を必要とする者」がこれにあたり、日々雇い入れられる者、2か月以内の期間を定めて使用される者、季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者、試みの使用期間中の者は含まれません。代表者や役員も含まれません。
一方で、事務局の収益計画のフォーマットでは、給与支給総額の従業員に「パート、アルバイト、契約社員、非正規社員、出向者等も含まれます」とされています。正社員だけを数えるのではありません。
賃上げ要件は「一人当たり」で見ます
いまの補助金で求められているのは、給与支給総額そのものではなく、それを従業員数で割った「一人当たり給与支給総額」の伸びです。
| 公募要領の定め | |
|---|---|
| 賃上げ要件(基本要件) | 補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、一人当たり給与支給総額の年平均成長率を3.5%以上増加する見込みの事業計画を策定し、これを達成すること |
| 賃上げ特例を受ける場合 | 上記に加えて更に年平均成長率+2.5%(合計で年平均成長率+6.0%)以上。あわせて事業場内最低賃金を地域別最低賃金より50円以上高い水準にすること |
| 比べる基準の年度 | 補助事業実施期間の終了時点が含まれる事業年度の一人当たり給与支給総額 |
| 目標値の表明 | 申請者自身で基準値以上の目標値を設定し、交付申請時までに全ての従業員又は従業員代表者に表明すること |
年平均成長率は複利で計算します。応募申請ガイドに示されている式は、「(報告年度の値÷基準年度の値)の(1÷報告年数)乗-1」です。
たとえば、基準年度の従業員の給与支給総額が4,000万円、従業員数が10人なら、一人当たり給与支給総額は400万円です。年平均3.5%で3年伸ばすと約443万5千円、5年なら約475万1千円が目安になります。
目標値を従業員等に表明していなかった場合は、交付決定の取消と補助金全額の返還になります。事業計画期間の最終年度に目標値を達成できなかった場合は、「補助金交付額×(1-最終年度の一人当たり給与支給総額の年平均成長率÷目標値)」の額の返還を求められ、成長率がゼロ又はマイナスなら全額返還です。なお、公募要領の基準値(3.5%)を超えていても、自分で決めた目標値に届かなければ要件を満たしません。
数える従業員・除く従業員
- 基準年度と、算出の対象となる各事業年度に、全月分の給与等の支給を受けた従業員が対象です。
- 中途採用や退職などで全月分の支給を受けていない従業員は、その事業年度に限り算出の対象から除きます。
- 産前・産後休業、育児休業、介護休業などで時短勤務を行っている従業員は、算出の対象から除くことができます。
- パートタイム従業員は、正社員の就業時間に換算して人数を出します。フォーマットの説明では、年間の所定労働時間を正社員1人の年間の所定労働時間で割って算出するとされています。
- 補助事業に従事しない従業員も対象です。
- 昇給や減給、残業時間の増減などで給与が変わる従業員も対象です。こうした変動も見込んで目標値を立てます。
法人の場合の計算
法人の場合は、決算書の人件費から、従業員に支払った給与だけを取り出します。事務局の収益計画のフォーマットでも、「役員報酬」「役員賞与」と「従業員の給与支給総額」は別の行に入力する形になっています。
- 従業員に支払った給料、賃金、賞与を集めます。当法人では、勘定科目の名前ではなく「従業員に支払った給与かどうか」で拾います。製造原価報告書の労務費に入っている従業員の賃金も、従業員に支払った給与であることに変わりはありません。
- 役員報酬、役員賞与、法定福利費、福利厚生費、退職金を除きます。
- 上の「数える従業員」の考え方で従業員数を出し、給与支給総額を割って一人当たりの額を出します。
決算書の「人件費」は、付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)の計算に使う別の数字です。フォーマットの説明では、販売費及び一般管理費の人件費に役員給与、福利厚生費、退職金なども入れることになっています。給与支給総額と取り違えないように注意してください。
個人事業主の場合の計算
公募要領の給与支給総額の定義は、法人と個人事業主で分かれていません。個人事業主も、従業員に支払った給料、賃金、賞与等を集計し、従業員数で割ります。
事業主ご本人は従業員ではないので、事業主ご本人の所得は「従業員に支払った給与等」に入りません。以前この記事でご紹介した「給料賃金+専従者給与+青色申告特別控除前の所得金額」という計算式は、いまの公募要領にはありません。
青色事業専従者給与をどう扱うかは、公募要領にも公式サイトのよくあるご質問にも書かれていません。ご家族を専従者にしている場合は、その方が「常時使用する従業員」にあたるかどうかも含めて、申請前に整理しておく必要があります。
また、応募申請時点で従業員が0名の事業者は対象外です。事業主おひとりで営んでいる場合は、応募申請時までに従業員を雇用していないと申請できません。
「足下の賃上げ」も審査で見られます
審査では、補助事業のあとの賃上げだけでなく、補助事業の完了を待たずに行う「足下の賃上げ」も評価されます。公募要領には、次のように書かれています。
最低でも、応募申請時の直近の事業年度から基準年度までの「1人当たり給与支給総額」の年平均成長率が物価上昇率を上回る程度の賃上げが達成されない場合は審査上大幅に不利になりますのでご留意ください。
足下の賃上げは、採択後、交付決定までの間に従業員へ表明することが必須とされ、その実績はモニタリングの対象になります。給与支給総額は、応募の前から数え方をそろえておくことが大切です。
要件の達成状況は、事業化状況報告のときに決算書や賃金台帳を出して確認されます。定義の原文は、公式サイトの資料ダウンロードにある公募要領と、よくあるご質問でご確認いただけます。補助金の概要は新事業進出・ものづくり商業サービス補助金のページにまとめています。
給与支給総額の目標づくりは当法人にご相談ください

一人当たり給与支給総額の目標値は、達成できなければ返還につながる数字です。熊本市のノーサイド行政書士法人は、経済産業省の認定経営革新等支援機関として、決算書と賃金台帳をもとに、無理のない目標値と事業計画づくりをお手伝いしています。オンラインで全国からのご相談にも対応しています。
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